あの日。
いつものように晩ご飯を済ませて、夫は自分の部屋に籠りました。
購入した机で翻訳の仕事をするためです。
翻訳の仕事と言ってもまだまだ量は少ないし、どれほどの収入になっているのかまだ全然分かりませんでしたが、新しい机に向かって仕事している・・・そんな自分の姿に酔いしれている風でした。
私はお風呂に入りたかったのですが、夫はまだ入っていなかったので声を掛けました。
「先に入るけどいい?」
・・・返事がありません。
「ちょっと?」と言って部屋の扉を開けると、夫が机に突っ伏していました。
いびきも聞こえてたので寝てるのかと思って「風邪引くから布団で寝たら?」と声を掛けても返事がありませんでした。
ちょっと肩を揺さぶってみたのですが、それでも起きませんでした。
さすがに様子がおかしいと思って娘に電話しました。
娘からすぐに救急車を呼ぶように言われて「え?」となったのです。
自分で思っている以上に動転していたようです。
救急車よりも娘の方が早くやって来ました。
と言うより救急車が思ったより遅かったのです。
電話した時に夫の様子を聞かれてそのままを伝えたら、動かさないように言われたのですが、机に突っ伏したままの夫が可哀想でした。
でも夫は身長178㎝の大柄(昔は180㎝超えていたのですが歳と共に縮んで来た)で、どうしようもありませんが。
やっと到着した救急車でしたが同乗を断られました。
コロナのせいです。
病院が決まったら連絡をするので、自宅で待機するように言われたのです。
「夫はコロナではないし私も大丈夫です」と言っても無理でした。
後で考えれば何の根拠もないのに、よく言ったもんです。
そして連絡が来るまでが、とても長かったのです。
あの日の事は正直に言ってあまり詳しく覚えていないのです。
今時間が経って記憶を呼び起こしていますが、思い違いの部分もあるかも知れません。
実際、娘と話していて「それはおばあちゃんの時じゃん」とか言われる始末です。
母はもう10年以上前に亡くなっているのに。